涙骨の釣り旅日記

ここまでの顛末はよそで書いたのでようやくしますが、
「デンマークから帰りのトランジットでアブダビ空港で長時間の待機があったので出国してみて、
ドバイまでの無料リムジンバスになんとか乗り込んで到着、地図を見てそこから海に向かうも気温は44度以上、外気温は60度だか65度だかの炎天下の中ひたすら1時間半くらい歩いてその後の日記です）



ビーチのトイレで涼をとって水を補給していると管理人らしきおじさんが入ってきた。
こちとら訳の分からんアジア人、警戒の一つもしそうだがそうでもない。
暑いですねえ、とか挨拶して使わせてもらう。
無人のビーチには監視所があって生まれつきなのか焼けすぎたのか真っ黒な男二人がいたので挨拶して
「泳いでいい？」「勿論！」
「あそこでちょっとだけ釣りしてもいい？」「オーケー！」
よし、これで気兼ねなくできる。
この国も釣りはライセンスがあるらしいのだがほぼ有名無実らしい。


大きめの石が積んで護岸のようになっている（真鶴の岩港みたい）の直線の奥で釣り開始。
水の透明度があまりに高く美しいが釣りには不向き。
そしてこの日差しと暑さで普通なら釣りなんかできない環境だが、今しかできないんだからしょうがない。
何がいるかもわからないのでまずは得意のガン玉一本胴突に生分解性ルアー・パワーイソメをつける。
オーフスで長い方の渓流竿が壊れて捨ててきたので、かなり辛い。
手元にある竿は、どちらも2.8m前後のバスロッド（投げるリールなし）と20センチ台まで縮む世界最短仕舞いのダナイブロスのインジェクターのみ。

のべ竿 ダナイブロス インジェクター ！ 世界最短級仕舞い寸法！ コンパクト 釣り具 釣り竿セット アボカド商店 にて多数取り扱い中！ 価格：2419円（税込、送料別) (2017/7/24時点)

こうなるとノベ竿のインジェクターしか使えない。
海中に沈んだ岩の隙間を穴釣り気分でゆっくり落とす。
やたらめったら根掛かりするなー。
この仕掛けは根掛かりがかなり少ないんだけど、毎回する。
見るとそこら中ウニだらけ！ガンガゼまでいる。
これに糸が絡んでるんだなあ。
というわけで垂らしの部分を短めに調整する際、
糸を切らずにオモリ止めの糸の結びの位置だけを上に持てばいいのではないか？とやってみる。
釣果には繋がらなかったが、これは新しい発見だ。
普通なら根掛かりはない仕掛けで、水底からエサが漂う距離を細かくコントロールできる仕掛けの完成だ。
まあここの場合、ウニのせいだけど。
剣山の上で糸流してるみたいなもので必ず引っかかる。

うーん、かすかにあたりはあるし、目視で魚がつつきに来ているの見えるのだけどダメだ。

エサがついてるエダスの長さが反応を悪くしているのかと、エダスをかなり短めにしてほとんどダウンショットリグにしてみる。
これであたりはかなり取れるようになったが、
重みを口が感じるまでの時間が短くなったのでさらに針がかりしなくなってしまった。
これではいけないと、最初から作り直し、タラシもエダスも均等に少し長めの短めにして挑戦。

途中でその辺で拾った貝を潰した餌を作ってやってみるとさすが地場産、
臭いであっという間にやってくるが餌取りのようにやられる。
チヌ針1号はデカイのかなあとキスなど小物に使う袖針のほそいのにする。
餌は反応高いが、どうしてもかからない悔しい。
もう一度、こんどはてもちのそふとるあーを手当たり次第やってみような。

このあたりで思ってた、今日はもう釣れないかもなあ、ここまでこんな大変な思いしてでも一度アラブ圏で魚釣りしたかったんだよなあ、
ああデンマークみたいにはいかないよなあ、
まあ水綺麗だからルアーを上手にノベ竿で泳がせる練習でもしようかなあ。
うーん、これも楽しいなあ、泳がせばっかり上手になってきた、ははは、


というところで、いきなり。
突然超表層を泳がせていた極小ザリガニ型のバスルアーに
銀色の細い何かが素早く襲いかかって暴れた。
強くない、うねる、引き上げる。
えー、初魚種だ！バラクーダ！といいたいけど、ダツだなこれは。






しかしなんとかっこええ顔しとるのアンタ。
ちっこいけど歯がすごいね。
ありがとう。
でもリリースしないよ、君はエサだ。

釣りしてると「食べるの？」「リリースするの」とかまあよくきかれるが
サバイバル釣りをする僕は「エサにする」がある。
サバイバルって今回全く食べてないじゃないの、今後の勉強、スキルアップ、
まあなんとでも言いやがれ、好きなんだよ、自分の釣りをするのが。

ここらでもう限界。ほんとに死にそう。
砂浜との際まで行ってパンイチになって水に入る。
さすがにぬるい。足元には見たこともない全身ミルクホワイトのしっかりした形の小魚の群れが舞う。
幸せだ。


すぐに深くなり、そこの流れが冷たいことを知る。
この暑さの中、二枚潮なら魚たちはこの二枚目の表層かその下にいるはずだ。
水に入ると釣りの情報量はかなり増える。

背泳ぎしようと思ったら、太陽があまりに強く一瞬で顔が焦げそうになったので止めた。
ほとんど人いないしいいだろう、とパンツを海中で脱いで全裸で泳ぐ。
気持ちいい！最高だ！
海は本当に綺麗で、けっこう生命感もある。
理想的だ。
つかれが溜まらないように泳いだ後、次の釣りの準備をする。
水引糸でペットボトル仕掛けを作り、関西のエレベーター仕掛けを応用してスナップで遊動するようにハリスをつけ、


針はデンマークで仕入れたトレブルフックのスプーン、
ここにさっきのダツをしっかりかける。
もう一つのペットボトルに小石と水を入れて浮力を調整して大きめのウキにする。
潮の流れをうまく読んで、岸側に戻ってこない流れを見つけて遠投。
即席で考えた死に餌の流し釣りをしながら
ノベ竿ルアーを続ける。
泳がせるのはうまくなったけど、魚っ気が全くない。
さすがに暑すぎるか。
波間に浮かぶペットボトルウキをチラチラ見ながら二つの釣り。
やっぱ向いてないな。
集中できなければ釣りやってる意味が薄い。
でも、めったに来れないこんなところだから、ちょっと欲が出てるんだなあ。
時間がかなり限られているというのもある。
まあそんなこんなしているうちに時間だ、
その前にペットボトル仕掛けを引き上げてダツを捌いて身餌にして安易に釣るか、
と思ったら、ダツ、ナッシング…。
まさか、あんなに三本針のうちの二本しかも雑な作りで深いカエシ付きのに
深く刺したのに、知らない間に食われてるとは…。
アラビア海恐るべし！
なんだったんだろうなあ。
この仕掛けは本当は時間をかけて、もしくは生き餌でやりたかったんだけどね。

楽しかった！
そんなとこまで行って、一匹、何百キロか移動して、楽しい？
死ぬほど楽しい。
魚を得るだけなら魚屋に行く。
金も道具も無かったら、人間は魚を得ることもできない、無力だ。
道具持っていても、釣れるとはかぎないし
むしろ釣れないと言っても良い。
そこからだ、今まで知り得た知識、待ち得た経験、培った技術、
その場の環境を理解し変化に適応しないといけない。
その場の自然に対して不自然でなくなったとき、
初めて魚が自分の力で釣れる可能性がうまれる。
釣るのは、そこからだ。
僕のような釣りは。
全人生をかけている。


海に冷やされたもののあっという間に焦げてきた。
帰りにまたトイレに寄ろうとしたら間違って管理人の控え室（トイレの入り口そっくり）開けてしまった。
ちょうど皆で床に座って小皿を並べてランチタイムだ、
うわ、すみません、間違えました、
といったのに、入りなさい、ここに来なさい、
ってみんな笑顔で言ってくれて、
帰りのバスがあるかないかの瀬戸際で、時間も体力も限界で
これからどれだけ歩くのか、という前でなければ
ぜひご一緒したかった。
シュクラン、ありがとう。

トイレでまた軽く水を浴び、すごい量の水を飲んで、ボトルに汲んで出発だ。

帰りの足取りは重い、この先に釣りはなく、帰るだけ、
目的地はわかっているけれどなんでこんな遠くまで来たんだ俺はアホか、
と恨んでもあるかないと帰れない。

途中本当に限界が来そうで、こそっとバス停に潜り込む。
さすがに冷房はないけど、日陰になるだけでかなりマシ。
とにかく呼吸が浅く速い。深呼吸するのも難しいが、なんとか呼吸法で落ち着く。
また重い足を引きずり、フライパンの上に飛び出す。
見てわかるくらい、肌が焼けている。
色白なのが嫌いで、焼けるのは歓迎だが、これは「焦げてる」だな。

もうつかないかと思った。
なんとかついて、また係りの人に交渉、なんとか乗れるのではないか、ということに。
ホッとした。
使えるかどうかわからなかったが、クレジットカードを試すといけた、
世界一美味しいコーラを飲んだ。

これから数時間バスを待つが、さっきの時間に比べたら天国だ。

これで僕の初アラブ圏釣りが終わった。
焼け焦げた僕を残して。